全日本弦楽コンクール

アマチュア部門
竹内徹さん

今回初開催の全日本弦楽コンクールでは、アマチュア部門が設けられました。1位に輝いたのは、竹内徹さん。普段は公務員として市役所で働いています。チェロは16歳から始め、現在は大阪を拠点とするアマチュアオーケストラ「千里フィルハーモニア・大阪」に所属しています。コロナ禍で思うように演奏活動ができない中、「楽しみ方のひとつ」としてエントリーしました。

竹内徹さん

「出ることに意味があって、結果を求めていたわけではなかった」という竹内さん。「順位はおまけだと思っていたけれど、素直に嬉しいです」と振り返ります。アマチュアのプレーヤーはオーケストラに所属するケースが多く、ソロの演奏機会が少ないため、コンクール出場という発想自体がそもそもないと言います。今は活動のしかたも多様化していますが、「アマチュア部門のあるコンクールも少ないし、コンクールはプロを目指す人が出るもの、とぼくたちの世代では区別されている感じ」。

アマチュアオーケストラは、ほとんどの場合、団員が生活のために活動しているわけではないため、コロナ禍のようにリスクを負う環境で活動を継続することにコンセンサスが取れません。竹内さんが所属するオーケストラもこの2年ほど活動がままならない状況が続いていますが、「好きでやっているから、チェロが弾けなかったらつらい」と胸の内を語ります。そんな中で見つけたコンクール。動画審査の手軽さと、演奏は自由曲というのもポイントとなって、出場を決めました。

オーケストラの仲間と

演奏曲は「風の谷のナウシカより 組曲5つのメロディー第2曲『はるかな地へ』」。好きな曲であるのはもちろん、演奏を途中で終了したり曲の途中をカットしたりするのは自分のポリシーに反するため、制限時間内で最後まで演奏できる長さの曲で、なおかつ、「プロを目指す人は選ばなさそうな曲」を選んだと言います。審査員からは「この曲が好きなことが伝わってきた」という講評も寄せられ、「聴く人に何かしら伝わるものがあるというのは表現者として嬉しいこと」と話します。

チェロを始めたきっかけは、ある日突然、ピアノの先生をしていた母親から勧められたことでした。妹はヴァイオリンを習っており、「あとは、チェロがあったらピアノトリオができる」という理由で“暇そうにしていた”竹内さんに白羽の矢が立ったのです。高校時代は個人の先生について一人でレッスンを受け、だんだんと弾けるようになったところで大学に入りオーケストラに所属すると、その楽しさに目覚め、4年間どっぷりハマりました。

でもその後、音楽の道に進もうとしなかったのは、甘い世界ではないことを知っていたからです。妹や伯母など、身近にプロの音楽家がいるからこそ、生半可な気持ちではできないことを肌で感じていました。だからこそ、心からチェロを楽しむことが、竹内さんにとってとても大事です。本選で演奏したホールへ行ったのも初めてでしたが、「東京に楽器を持っていくこと自体がめったにないことなので、それだけで楽しかった」と言います。もちろん、4月に開催される入賞者コンサートにも出演します。

母と妹とのピアノトリオ

20代までは個人レッスンに通っていましたが、最近は年に1回受ける程度。レッスンには行かなくても、先生が出演するコンサートに行ったり、食事をしたり。「師匠には頭が上がらない」と言いつつも、そんなゆるい繋がりが心地よくて、続けられています。また門下生同士のネットワークもあり、それぞれがそれぞれの環境で頑張り楽しんでいる様子を聞くにつけ、触発されています。

竹内さんは、「チェロは、群れる特性がある」と言います。同じ楽器だけで集まってアンサンブルできるのもチェロの大きな魅力であるとともに、どこへ行っても演奏者同士がすぐに仲良くなれるのが不思議です。今回の本選の楽屋でも、チェロを弾く出場者が仲良くなり、待ち時間は話に花が咲きました。職業や立場が違っても、チェロという点ではフラットにいられることや、チェロを通じた出会いの楽しさを感じます。

「今後も、好きを追求するアマチュアイズムを極めていきたい」と竹内さん。何を弾いても、失敗しても、誰からも怒られない。好きな時に好きな曲に取り組めるのは、アマチュアの大きな強みです。一方で、プロとアマチュアの間にある溝のようなものも感じると言います。同じ楽器をやっているのに違う世界にいるような感覚。だからこそ、部門は違えど今回のようなコンクールで同じ舞台に立つことは、交流の場にもなると考えています。
「音楽は楽しいもので、みんなが同じように楽しめるもの」。コロナ禍でたくさんの演奏会が中止になるなか、ひとりの音楽愛好家として何ができるのか、自問自答する日々です。

“好き”を追求したい

二人の子のお父さんでもある竹内さん。下の子がピアノを習い始めたため、電子ピアノを購入。自分自身は小学生の頃にやめてしまったことを「すごく後悔している」そうで、最近は、竹内さんも鍵盤に触るようになりました。「すべての源は、楽しくあること。聴くだけでなく演奏できることで、楽しみの幅は倍増します。音楽を趣味として楽しめるのは、恵まれた環境です」。

 

「No Music, No Life.」お話の中で竹内さんが何度か口にした言葉です。心から楽しむ。大人になるとできなくなることも増えますが、竹内さんのように、こんなに夢中になれることがあるのは、とても理想的です。そして、音楽の楽しみ方は無限だということを、改めて教えられたインタビューでした。

※文中の学年・年齢は、エントリー時のものです。
※インタビューは3月上旬に行いました。

本選での竹内徹さんの演奏はこちら