全日本弦楽コンクール

中学生部門
中谷哲太朗さん

中学生部門1位は、横浜国立大学教育学部附属鎌倉中学校1年生の中谷哲太朗さん。「舞台で演奏する機会を多くつくる」という目標を掲げていた昨年、たまたま見つけて出場。姉の怜央奈さんは高校生部門3位、姉弟そろっての入賞でした。
普段は自宅練習にあてているという時間の合間をぬって、怜央奈さんとお母様と3人でインタビューに答えてくれました。

中谷哲太朗さん

哲太朗さんは生後2カ月から、怜央奈さんのヴァイオリンのレッスンを聴いていました。ヴァイオリンを持って弾きはじめたのは、3歳のとき。それからしばらくは、なんとなくなりゆきでやっていましたが、10歳のころから自分の意志で「続けたい」と思うようになったと言います。もともとは、子どものころにピアノを習っていたお母さんの「子どもたちに音楽に触れさせたい」という思いがきっかけでした。

もうすぐ2歳。先生はお姉ちゃん

コンクールはもちろん、毎回ステージに立つときは目標を設定しています。今回の本選では「コロナ禍で苦しい思いをしている人が、少しでも明るい気持ちになれるように」そんな思いを込めて演奏しました。ただ、技術面では、緊張もあって思うように弾くことができませんでした。だからこそ、最優秀賞の結果は「とてもびっくりしました」。

審査員から届いた講評では、弱点やいいところを指摘され、曲想についての細かいアドバイスもありました。さらに優しい励ましの言葉も並んでいて、「見守られているような、あたたかい感じがして、とても嬉しかった」と振り返ります。

昨年春に中学に進学しサッカー部に入部したものの、ヴァイオリンとの両立が難しく「すこし悩んだけれど…」退部を決めました。普段は、自宅の自分の部屋で、平日は2時間ほど練習をします。休日は5〜6時間、余裕があるときは8時間ほど。隣の部屋では、姉の怜央奈さんが練習しています。

ずっと仲良し

コツコツひとりで練習していると、ときどきつらくなることもありますが、小さなころからずっと怜央奈さんがそばにいるのは心強く、ふたりで弾くと楽しくなると言います。それに、頑張るお姉さんの姿は刺激にもなります。「姉だけが上手くなるのは……と思って、自分も練習を頑張っています(笑)」と哲太朗さん。怜央奈さんも「ライバルというより、お互いを目標にしてやっているところがあります」と、切磋琢磨して高めあえる存在です。もうすぐサロンコンサートに出演することが決まっていて、怜央奈さんと二人で「パッサカリア」を演奏すると教えてくれました。

いつもそばにいる心強い存在

哲太朗さんは、怜央奈さんと一緒にジュニアオーケストラに所属していて、5年目になります。月に2回、怜央奈さんとお母さんと3人で、横浜市内の自宅から練習が行われる都内まで通っています。コロナ禍で中止になったこともありましたが、毎年春と夏に演奏会があり、今年はもうすぐ本番。メンバーは小学校3年生から20歳までと幅広いですが、演奏会開演前に行われるプレコンサートではアンサンブルも経験し、一人だけではなくみんなで一緒に演奏することの楽しさや、仲間で演奏することによる気持ちの高まりも感じています。

福祉施設でオーケストラの仲間と

「ヴァイオリンは、自分で音を作り出せる楽器、より自分の気持ちを乗せられる楽器だと思う。歌っているように表現できるようになりたいです」と哲太朗さん。気持ちがうまく乗ったときは「最高ですね」と笑顔。好きな音楽家は、サラサーテやサン・サーンスなど。ロマン派の音楽にはやわらかさがあって、より自分らしい表現ができると言います。「でも、身体はかたいです」と哲太朗さん(笑)。「左右に身体の重心が傾いてしまうと、いい音が飛ばないとも言われるから、最近ストレッチをはじめました」。育ち盛りの中学生、ヴァイオリンをよりよく弾くための身体づくりもいまの課題のひとつです。

小学校5年生のとき、ドイツでレッスンを受けたことがある哲太朗さん。指導を受けたあと、その成果を発表する舞台で演奏を終えると、大きな拍手がわき起こりました。「音楽は、言葉がなくても伝わるものがあるんだなと実感しました。だから音楽を通じて、人と人をつなぐ役目を果たしたい。困っている人や気持ちが暗くなっている人の力になりたいです」。

ドイツのお城で演奏

この思いは、日ごろから家族で話をするなかで強くしました。「世界にはさまざまな環境で生きている人がいます。ヴァイオリンを弾けることは、あたりまえではなくて、ありがたいこと。平和じゃないとできないね、と。だから、舞台では感謝の気持ちを表現したいねと、話をするんです」とお母さん。いまなら戦禍に苦しむ人を想い、平和を願う気持ちを大切にしよう、と皆で確かめあっています。

お母さんは、「結果はどうあれ、ひとつのことをずっと続けてくれているのは嬉しいです。日々続けるということが力になって、これからの人生で役立つと思うので。親から見ても、すごいなあと思います。こちらも頑張らなくちゃ」と率直な気持ちを聞かせてくれました。音楽のことはまったくわからないというお父さんも、子どもたちのやる気を尊重して、応援してくれています。

哲太朗さんの将来の夢は、プロのヴァイオリニスト。中学卒業後は専門的に進学することを視野に入れ、ピアノやソルフェージュのレッスンも受けて、いまから準備をしています。そして、「日本だけでおさまらず世界に出て、みんなの心をつなぐヴァイオリニストになりたいです」としっかりと話してくれました。

夢は人をつなぐヴァイオリニスト

 

「いつも3人一緒なんです」というだけあって、インタビュー中はご家族の仲の良さが伝わる、笑いいっぱいのあたたかな時間でした。「音楽を通じて人と人をつなぎたい」という哲太朗さんの思いは、ご家族のつながりを実感しているからこそなのだと思います。このあたたかなつながりが、海を越えて、こんどは世界の人をつないでいく。それが平和な世の中をつくると確信できる、そんなインタビューでした。

※文中の学年・年齢は、エントリー時のものです。
※インタビューは3月上旬に行いました。

本選での中谷哲太朗さんの演奏はこちら