全日本弦楽コンクール

小学生高学年部門
篠﨑千響さん

小学生高学年部門金賞に輝いたのは、篠﨑千響さん。茨城大学教育学部附属小学校5年生です。コロナ禍のいまは、学校の授業がオンラインで行われることもあり、通常であれば登下校の時間もヴァイオリンの練習にあてることができているという千響さん。お父様と一緒に、ヴァイオリンへの思いを話してくれました。

篠﨑千響さん

本選はホールで弾けること。これが、全日本弦楽コンクール出場の決め手になりました。コロナ禍で以前より減っていますが、ステージでの演奏機会はできるだけ作りたいと考えています。本選2日前には、全日本学生音楽コンクールの全国大会に出場し、結果は2位。最高の状態で、もう一度のびのびとホールで弾きたいという思いもありました。これまでコンスタントに、年に数回はコンクールに出場してきたためステージ慣れしているものの「大事な場で緊張してしまうこともある」と千響さん。今回は、いいタイミングで緊張せずに弾くことができたと言います。

千響さんは、お母さんのお腹の中にいるときからヴァイオリンの音を聴いていました。子どものころにヴァイオリンを習っていたお父さんが、時々そばで弾いていたからです。「音に反応して、お腹の中で動くのがおもしろかった」とお父さん。生まれてからも、お父さんが弾いて聴かせると、その様子を目を輝かせて見ていたと言います。
そして、千響さんが2歳のときのこと。バッハの曲が流れるスピーカーの上に乗って「これ!これ!」と千響さん。「もしかしたら好きなのかもしれない」そう思ったお父さんはさっそく、いちばん小さな32分の1のサイズのヴァイオリンを千響さんに与えました。その後、構えなど2歳の子でもできる基本的なことをお父さんが教えると、音も出せるように。3歳になると、音楽教室で本格的にレッスンをはじめました。

娘にヴァイオリンを習わせようと強く思っていたわけではありませんでしたが、「生まれる前から聴かせていたから、ヴァイオリンの音に慣れていて、子守唄のように聴いていたんじゃないかな」とお父さん。千響さんは「木のぬくもりが感じられる音色」が、ヴァイオリンの魅力だと感じています。「特に古いヴァイオリンは木の乾き具合がよくて、響きが身体に入ってくるような感じが好き。それに、いつでも自分のそばに置いておける。自分で持って出かけることができるのも、ヴァイオリンのいいところです」。ヴァイオリンとは、お友だちのような感覚。いつも一緒がよくて、離れなければならないときはかなしい気分になります。

5歳。お友だちのような存在

普段は5時間ほど練習します。寝る時間が深夜になることも。朝は6時ころに起きるので「あんまり寝られない」と千響さん。それでも、どんなに眠くても、毎日の基礎練習は欠かしません。その基礎練習にはルーティンがあり、中には「パパがつくったオリジナルの基礎指練習」も。かつてお父さんがやっていた練習内容から、千響さんが苦手な部分を中心にピックアップして、毎日の練習に組み込んでいます。
できるときはつきっきりで、お父さんとの二人三脚で歩んできました。交通事故の後遺症でお父さんの体調がよくないときは、ベッドサイドで見てもらうこともありますが、千響さんが4年生のころからは、ひとりでも練習するように。そしてほぼ毎週、複数の先生方から指導を受けています。「自分が先生の言うことを理解できて、娘をサポートしてあげられる点はよかった」とお父さんは言います。

お父さんは、物心つくころにはヴァイオリンを習い本格的にレッスンを積んでいましたが、中学1年生のとき、怪我のためにやめざるをえませんでした。「自分ができなくなってしまったことを、偶然でも娘が引き継いでくれた。子どもに何かしら残してあげたいと思うのは、親としての想い。こうして自分がやってきたことを子どもに伝えて、それが形になっているのは幸せなこと」とお父さんは話します。コンクールなどで結果を残していますが、そうして形になることは、千響さんにとって自信にもなると考えています。
千響さんも、お父さんへの感謝の気持ちでいっぱいです。「パパがやっていなかったら2歳から始められなかった。少しでもはやくヴァイオリンに触れられたのはよかった。だからこそ、ここまで上がってこられたんだと思います。これだけやってるから、もうやめるわけにはいきません(笑)」

6歳。ヴァイオリンとはいつも一緒

千響さんの理想の音色は、師である原田幸一郎先生やピエール・アモイヤル先生。憧れのヴァイオリニストは、五嶋みどりさんやヒラリー・ハーンさん。小さなころから、五嶋みどりさんのあたたかな音色が好きで、いまもよく聴いています。ヒラリー・ハーンさんは、最近行く予定だった来日公演が中止になってしまい、とても残念に思っています。二人のようなヴァイオリニストになることが、将来の夢です。
「聴いてくださる方を私の音で包み込んで、その人の心にずっと住み続けられるような演奏がしたい。聴いた人が元気になるような、その人を救えるような演奏をすることが目標です」。そのためのビジョンは明確です。まずは音高に行くこと。そして音大に進学すること。これは、演奏活動をしてく上での土台になると考えています。「そこに到達するまでの努力を怠らないことが大事」。小学5年生の千響さんは、力強く言いました。

夢にむかって

画面越しの千響さんは、小学生とは思えないほどしっかりしていて、時々むずかしい表現を使いながら順序立ててお話をしてくれました。自分の考えや思いを伝えるための言葉を持っているというのは、強みになりますね。小学生にしてはとてもストイックな毎日を送っていますが、それを支えるのは揺るぎない意志です。最後に「頑張ります」ときらきらした笑顔で言ってくれたことに、すこし救われました。これからも応援しています。

※文中の学年・年齢は、エントリー時のものです。
※インタビューは3月上旬に行いました。

本選での篠﨑千響さんの演奏はこちら