アマチュア部門1位の藤田亮(ふじた・りょう)さんは普段、プラントエンジニアリング会社で化学工場設備の設計をする仕事に就いています。ヴァイオリンを習い始めたのは7歳のとき。途中レッスンをお休みした時期もありましたが、34歳となる現在までずっと弾き続けてきました。平日の昼休み、オンラインでお話を伺いました。
藤田亮さん
地区大会、全国大会ともに審査員から「アマチュアの方とは思えない、すばらしい演奏」と絶賛された藤田さん。今回エントリーしたのは「オーケストラや室内楽の本番を漠然とこなす状況が続いていたので、目標を設定して、いま一度自分の音楽と向きあいたいと思ったから」と振り返ります。「ひとつ目標をクリアできて嬉しいです。以前より堂々と弾けるようになったと思います」。全日本弦楽コンクールに先だって、昨年12月には第32回日本クラシック音楽コンクール一般の部でもトップの成績をおさめました。この夏にはさらに2つのコンクールに出場します。「これまで受けてこなかったぶん、この1年はコンクールを頑張る年にして、自信をつけようなかと思っています。30歳すぎてからのチャレンジです」。
クラシック音楽が好きなお父さんの影響で、子どものころ自宅では、バッハの協奏曲、ショスタコービッチ、ラフマニノフの交響曲がよく流れていました。大勢の前で初めてヴァイオリンを披露したのは、中学2年生のとき。文化祭のステージで、友人のピアノと一緒に「愛の挨拶」と「チャルダッシュ」を演奏したところ、「思った以上に評判がよくて、普段はヴァイオリンの音に触れることのない友だちが『こんなに大きな音が出るんだね』とか『身体に振動するような不思議な音だね』と言ってくれたんです。自分の演奏を聴いて喜んでくれる人がいるのはすごく楽しいと感じて、それ以来ヴァイオリンを弾くことが好きになりました」。
高校生のころまでは音大に進みたいと漠然とした夢を抱いていましたが、師事する先生から「長い将来を考えたら、あなたは働きながら趣味で音楽を続けていくことが幸せだと思うと言われて、言う通りにしました」。音楽を職業とすることは並々ならぬ努力と才能、運がないと厳しいという、藤田さんのことを思うからこその先生の言葉でしたが、「その通りにしてよかったと思っています。いまは趣味として存分に楽しめていますし、すばらしい音楽家に出会えて、人生を豊かにしてくれていると思うから」と藤田さん。千葉大学大学院工学研究科を修了し、エンジニアとして働くかたわら、これまで複数のアマチュアオーケストラや室内合奏団に所属し、ヴァイオリンを続けてきました。
ドボルザーク「弦楽六重奏」を仲間と
小学校5年生から20歳までは千葉県少年少女オーケストラに所属し、厳しい音楽監督のもとアンサンブルの経験を重ねた藤田さん。「ヴァイオリンの仲間のうち同い年の2人が圧倒的に上手で、比較されて悔しい思いをしたことを覚えています。でもそれ以外は、オケの仲間との楽しい思い出しかありません」。音楽を通じて出会ったたくさんの仲間は、藤田さんにとって大切な存在です。「さまざまな仕事、バックグラウンドを持った方々の音楽観に出会えて、刺激を与えあえる。人間的にも音楽的にもすばらしい人との出会いや交流の面白さが、音楽を続けるモチベーションにもなっています」。
藤田さんは以前、全国転勤のある会社に勤めており、各地の楽団にも所属していましたが、住む場所と音楽活動の場所は自分で決めたいと考えるようになり、転勤のない現在の会社に転職しました。こうして腰をすえることで、仕事にも音楽にもしっかり向き合うことができていると感じています。いまはフレックスタイム制を使い、定時より1時間早く出社して、そのぶん早く退社し、平日は夕方からの数時間、自宅での練習時間を確保しています。
現在いくつかのオーケストラでコンサートマスターやソリストを務めている藤田さん。「こんな弾きかたがあるんだ、この人の音楽に対する考えかたが好きだな、参考にしてみよう、と切磋琢磨しあうことで、音色も人生も豊かになっていくと思います。多種多様なプレーヤーが集まるので、オケの運営方針、音楽の方向性、技術レベルもさまざまですが、第一に音楽を楽しみ、仲間の音楽をリスペクトすることを心がけています」。
オーケストラではコンサートマスターを
藤田さんにも「この人についていきたい」と思えるヴァイオリンの友人がいると言います。「彼は、小さいころからコンクールで優秀な成績をおさめながらも一般の大学に進学して、いまはサラリーマンとして働いています。技術も音色もすばらしく物腰もやわらかくて、何よりオケの仲間が楽しく弾けることを大事にしています。彼の音楽や表現だったらとことん合わせたいし参考にしたいと思える。彼の人柄の賜物でしょうか」。刺激を与えあい尊敬できる友人の存在が、藤田さんの音楽への想いを一層かきたてます。
たくさんの出会いが音楽も人生も豊かにする
「これからも、自分やまわりが楽しんで音楽をすること、いい刺激を与えあうことを大事にしていきたいです。そして、一生の趣味として音楽を続けていきたいです」。
職業としてではなくても、ずっと音楽に関わり続けることはできる。年齢関係なく一生の趣味にできるのも、音楽ならではかもしれませんね。音楽の楽しみかたは十人十色だということをまた教えていただいたインタビューでした。
※文中の学年・年齢は、エントリー時のものです。
※インタビューは6月中旬に行いました。
全国大会での藤田亮さんの演奏はこちら。