全日本弦楽コンクール

小学生高学年・上野怜さん

小学生高学年の部で最優秀賞に輝いたのは、上野怜(うえの・れい)さん。今年の春、東京学芸大学附属小金井小学校を卒業、中学校に進学しています。全国大会は、プロのピアニストであるお母様の伴奏でステージに立ちました。高い技術と丁寧な演奏が、審査員から評価されました。

上野怜さん

お母さんがチェリストの伴奏をすることもあり、怜さんが小さなころから、自宅ではチェロのCDがよく流れていました。そうして自然と耳にしたチェロの音色に、憧れを抱いていた怜さん。6歳のクリスマスに、お母さんがチェロをプレゼントしてくれて、小学校に入学するすこし前からレッスンを始めました。「あぁ、これがチェロかぁ」と初めて自分のチェロを手にし、2、3カ月でうまく音も出せるようになりました。弾くうちに、さらにチェロが好きになっていったと言います。

チェロがやってきた日

鏡を見ながらフォームの確認

クラシック音楽が身近にあったことから、幼いころから音楽が好きだった怜さん。コンクールにもチャレンジしてきましたが、5、6年生のあいだは、ほとんどのコンクールで入賞できませんでした。技術的に何が足りないのか自分でも理解していたものの、うまく課題を克服できず思うような結果につながらないことが、怜さんを精神的に追い詰めました。「そのときは、チェロを、コンクールで賞を勝ちとるためのものとして扱ってしまっていました。本来は、自分を表現するためのすばらしい楽器であるはずなのに、コンクールで賞をとって見栄を張るための楽器になってしまって、その結果に一喜一憂しすぎて……本当につらかったです」。

それでも、やめたいとは思いませんでした。「できないからこそ練習して、がんばろうと思いました」。その気持ちを支えるものは、怜さんが掲げる目標です。「師事している先生は皆すばらしいチェリストで、先生方がわたしの目標。先生たちのような音を出したいという思いが、自分を支えています」。師事する3人の先生は、身体の大きさに関わらず重厚な音色を出したり、フレーズによって音色を変えたり。豊かな表現力にもとづき奏でられる先生たちの音色は、怜さんを惹きつけます。

できないからこそ、がんばれるもの

そんななか見つけた、全日本弦楽コンクール。「これまで、フルサイズのヴァイオリンを使用している人たちと分数楽器のサイズのチェロのわたしとでは、音量があまりに違ったため、弦楽器部門となるとどうしても入賞は難しかった。でも、動画審査があることで繰り返し視聴できることから、音量だけで判断されないという点に公平性を感じました」。とはいえ、締切ぎりぎりまでエントリーするかどうかを悩んだという怜さん。「出場を決めたときにやっと、いつまでもめそめそせずに、いい音が出せるように練習しようと、気持ちがふっきれたような気がします」。

そして迎えた全国大会。「当日の演奏は、自分でも満足のいくものでした。コンクールで、いわゆる最高位になるのは初めてなので、とても嬉しいです。先生方にも喜んでいただけたし、母とも喜びあいました」。コンクールへの出場自体を悩んでいた怜さんにとっては「出場してよかったし、いい結果になってよかった。長いこと苦しんで閉ざされていた心が解放されて、天にも昇る心地です!」

この春、中学校に進学。平日は、登校前の30分ほどの基礎練習と、帰宅後の最低1時間半の練習を欠かさず行っています。練習時間を確保するために、部活には入っていません。休日は多いときで6時間ほど練習します。
「つらく苦しかったときも、その時期を経てチェロを心から好きになれた今も、その時々で違うどんな心情も音に乗せることができる。そうして自分の個性を存分に出せるところが、チェロの魅力です」。コンクールや試験で結果を出すためのものではなく、今は純粋に、自分の心を表せるものとして弾けているという実感があると言います。

公開レッスンを受けに

「勉強も楽しいから、高校まではしっかり学業に励むのもいいと思うし、思いきって音楽の道に進んで自分の個性を伸ばしてみたいという思いもある。今後のことはゆっくり考えるつもり」と怜さん。見据えるのは、世界です。「これまでに講習を受けた海外からの先生方は、日本とは違う考えかたを持っていて、面白いなと感じました。だから、日本国内にとどまらず、いずれは世界にはばたきたいという気持ちが強いです。どちらかに縛られることなく、自分の個性を大切に、自分の思うように、世界中で活躍できるチェリストになりたい」。授業科目のなかでも好きな英語は、塾に通ったりして力を入れています。夢に向かって、怜さんの準備は着々と進んでいます。

毎夏にピアノトリオで演奏を
お母さんと共演

 

春に中学生になったばかりとは思えないほど、とてもしっかりとした口調で自分の考えや思いを語ってくれました。それは、自分のなかにあるものを言葉にする力が備わっている証ですが、だからこそ、苦しかったときの気持ちも、心からチェロが好きだという気持ちも、まっすぐに伝わってきたように思います。そして、それは怜さんが奏でるチェロの音色にも表れているのですね。世界中で活躍する怜さんの姿を見る日が楽しみです。

※文中の学年・年齢は、エントリー時のものです。
※インタビューは6月下旬に行いました。

全国大会での上野怜さんの演奏はこちら