渥美小春(あつみ・こはる)さんは現在、東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校の2年生です(エントリー時は1年生)。「インスタを見ていたら、広告が流れてきた」という現代っ子らしいきっかけで、全日本弦楽コンクールを知ったと言います。審査員からは「音色」について高く評価され、1位に輝きました。
渥美小春さん
「まさか1位になるとは思っていなかった」と小春さん。「精一杯やった結果が1位につながってよかった。安心しました」と笑顔を見せます。地区大会は動画審査のため、現地に出向かなくても出場できる手軽さと、全国大会は、当日の演奏を多くの人が観たり聴いたりできることや、自分自身も後日見返せることが公平性や透明性につながっていると感じ、エントリーを決めました。地区大会用の動画は、学校のホールで撮影。「今回初めて、学校の友だちにピアノを弾いてもらったので、楽しく撮影できました」。結果には、伴奏してくれた同級生も祝福してくれたと言います。全国大会当日は、おじいちゃんとお父さんが仕事の合間にライブ配信をチェックしてくれて、「よかったよ!」と声をかけてくれました。
小春さんの叔母が、ヴァイオリニストの辻本雲母さんです。身近にヴァイオリンがあったことから、小春さんも2歳のときにはすでにヴァイオリンを触っていました。4歳のころから雲母先生に習い始め、現在も週に一度レッスンを受けています。中学2年生からは、全日本弦楽コンクールの審査員を務める植村太郎先生にも師事しています。
「これまでヴァイオリン一筋だったから、勉強はあまりやってこなくて……。小学校3年生くらいのときに、勉強はあきらめたんです(笑)。でもそれだと生きていけないから、わたしに唯一残されたヴァイオリンで食べていこうと決めました」。はやくに将来の道を決めましたが、お母さんや雲母先生は応援してくれました。
辻本雲母先生と
現在は音高に通う小春さん。学校でもレッスンはありますが、帰宅すると3時間ほどを練習に充てています。そのあと塾に行って、帰宅するのは夜9時半すぎ。「毎日疲れ果ててしまって……時間をうまく調整することが、いまの課題」と話します。
忙しい高校生活ですが、リフレッシュも忘れずにモチベーションを保っています。「学校の行き帰りの電車では、イヤホンで好きな曲を聴いて、ぼーっとしています」。よく聴くのは、韓国ドラマのオリジナルサウンドトラック。クラシックではなく、違うジャンルの音楽です。余裕があるときは、電車のなかや寝るまえに韓国ドラマも観ます。あえてヴァイオリンから離れる時間をつくることで、上手にバランスをとっています。
「すぐに疲れちゃうから、短時間集中型」と小春さん。「自分の欠点を見つけると、その改善策を考えながら、明日につながる練習を意識しています」。ヴァイオリンを弾くことの魅力は「ちょっとした調整で音がガラッと変わるのでデリケートなところもありますが、こだわりを持つことで理想の音色が出たときにやりがいを感じます」。
小春さんがこだわるのは「音色のよさ」です。すこしでも雑音が入ったり、理想の音色にならなかったりしたら、できるまで突き詰めることを大事にしています。今回は、地区大会、全国大会ともに、審査員から「伸びやかな演奏と音色」「集中力の高い音」「大変美しい音色」と、音色のよさを評価するコメントが相次ぎました。「いつも音色に気をつかっているから、そういう評価を受けるとやりがいを感じるし、これからも突き詰めて、いい音を出していこうと思います」と小春さん。
目指すのは、演奏家としてもひとりの女性としても自立したヴァイオリニストです。「技術だけではなく、外見や人格もひとから愛されて、たくさん仕事をいただけることが理想」。その具体的な道のひとつとして、N響に入ることが将来の夢です。小春さんの叔父は、現役のN響所属のチェロ奏者。普段からN響のコンサートを聴いて、オーケストラの魅力を感じています。ヴァイオリンは競争率も高く入団は簡単なことではありませんが、「今からたくさん準備をして夢に向かっていきたい」と話します。
目標とするヴァイオリニストは、レイ・チェン。「レイ・チェンのように、演奏することを楽しめる演奏家になりたい。もう一度聴きたい、魅力的な音だなと思われるような演奏をしたい」。
高校生で「目指すのは、演奏家としてもひとりの女性としても自立したヴァイオリニスト」とはっきり言えることも、そのためにどんな準備をしたらいいかを理解できていることも、とても立派だと感じました。きっと身近にすてきな演奏家がいるからですね。これからも、小春さんが突き詰めた理想の音色をたくさん聴かせてくださいね。
※文中の学年・年齢は、エントリー時のものです。
※インタビューは6月中旬に行いました。
全国大会での渥美小春さんの演奏はこちら。