全日本弦楽コンクール

小学生低学年部門:植田りのさん

小学生低学年部門の最優秀賞金賞に輝いたのは、ヴァイオリンの植田りのさん。世田谷区立烏山小学校に通う3年生です。幼い頃からひたむきに努力を重ねてきたりのさんに、ヴァイオリンを始めたきっかけや普段の練習、そして将来の夢についてお話をうかがいました。

植田りのさん

りのさんがヴァイオリンと出会ったのは、わずか2歳の時。お母さまと一緒にオーケストラのコンサートへ出かけたことがきっかけでした。「一番前に座っていたヴァイオリンの人が、体全体を使って演奏したり、みんなに合図を送ったりしている姿がすごくかっこよかったからです」と、当時のときめきを振り返ります。

その後しばらくは、家にあるおもちゃなど何でも顎に挟んでヴァイオリンを弾く真似をして遊んでいたそう。ご自身ではあまり覚えていないとのことですが、当時の写真にはそのかわいらしい姿がたくさん残されています。

初めてヴァイオリンを手にした2歳の時

3歳の誕生日に念願のヴァイオリンを買ってもらい、教室に通い始めましたが、最初はリトミック中心のレッスンだったため、「もっとヴァイオリンが弾きたい!」と自ら訴えたというりのさん。4歳で現在の森島恵先生の門下に入ると、そこには上手なお兄さん、お姉さんがたくさんいました。そんな憧れの先輩達がコンクールに挑戦する姿を見て、「私もコンクールに出たい!」と5歳でコンクールに初挑戦したそう。幼い頃からの意志の強さと向上心が、今のりのさんを作っていることがうかがえます。

現在も師事する森島先生と

普段の練習は、学校から帰宅して1時間休憩した後、夕方の4時から夜8時までみっちりと行います。「夜ごはんは練習が終わってからです。4時間ずっと弾き続けるのは大変ですが、途中で休憩もするので大丈夫」と頼もしい言葉が返ってきました。

そんなストイックな日々の練習を支えているのは、お母さまの温かいサポートです。「お母さんはずっと一緒に練習を見たり聴いたりして、アドバイスをしてくれます。とても優しいので、一緒に練習するのが楽しいです」。レッスンで先生から言われたことをお母さまがノートにまとめ、りのさんと一緒に確認しながら音楽を作っていく二人三脚の時間が、りのさんの豊かな表現力を育んでいるのでしょう。

今でこそ堂々とした演奏を見せるりのさんですが、小学2年生の時には大きな挫折も経験しました。本番のステージで、速いパッセージの途中で分からなくなり、頭が真っ白になって止まってしまったのです。すぐに弾き直し、結果は1位を獲得したものの、その経験は小さな恐怖心を残しました。しかし、教室の友人やお母さま、先生からの「大丈夫だよ」「大人になっても緊張するんだよ」という励ましや、「聴いている人は悪いところを探しているんじゃなくて、良いところを聴こうとしてくれているんだよ」という言葉が、りのさんを救いました。温かい周囲の支えにより、りのさんは再び舞台へ立つ勇気と喜びを取り戻したのです。

練習の様子

現在の課題は、「ただ弾くのではなく、どういう風に自分の音が響いているか、どう届いているのか、聴いてくれている人のことを考えながら演奏すること」。そのために部分練習を徹底し、「無駄な音は一音も無いんだよ」という先生の言葉を胸に、一音一音を大切に磨き上げています。

また、「頑張っているけれど、頑張っていないように見せる」つまり、余裕を持ってのびのびと弾けるようになるまで練習をたくさん重ねることを大切にしているそうです。

発表会での様子

今回のコンクールで演奏したのは、ブルッフの『スコットランド幻想曲』第4楽章。同じ教室の先輩が弾いているのを聴いて「かっこいい」と憧れていた曲です。スコットランド民謡の要素が含まれたこの曲を演奏するにあたり、お母さまと一緒にスコットランドの風景写真を調べてイメージを膨らませました。「スコットランドは曇りの日が多いので、雲の間から陽の光が差し込んでくるようなイメージで弾きました」と語る感性の豊かさには驚かされます。

本番では、緊張しつつも「ここまで練習してきたから大丈夫!」と自分を信じ、のびのびと演奏することを心がけたと語ります。審査員からは「リズムを全身で感じているのが伝わる」「色の豊かさを感じる」「細かい部分までよく弾けていた」といった絶賛の講評が贈られました。

受賞を知った時は、「頑張ってよかった。たくさん弾いたことは間違いじゃなかったんだな、とうれしかった」と努力が報われた喜びを噛み締めたそうです。

最初は舞台で弾くのがただただ楽しい、という無邪気な気持ちでコンクールに取り組んでいたりのさんですが、今では自分の演奏についてさまざまなフィードバックをもらえることもコンクールの楽しみのひとつだそうです。

全国大会1位を取った時の祖父母からのお祝いのケーキ

ヴァイオリン以外では、おばあさま、お母さまと3人での旅行が大好きだという小学生らしい一面も。最近訪れた尾瀬のような自然豊かな場所で、おいしいものを食べたり風景を眺めたりすることが、良い息抜きになっているようです。今回1位だったご褒美にも、「長野に連れて行って」とお願いしたとか。

現在の夢について尋ねると、「オーケストラに入ってアンサンブルをしてみたい」とのこと。憧れのジュニアオーケストラへの挑戦も検討しています。また、「楽しく舞台に立って、たくさんの人を幸せにできる音楽を奏でたい。そして、お父さんとお母さんに『ヴァイオリンを習わせてよかった』と思ってもらいたい」とも語ってくれました。

さらに、大人になってからの将来の夢を聞くと、「勉強も音楽も頑張って、世界に役立つ仕事がしたいです」とりのさん。理由を尋ねると、「ニュースで世界の戦争や悲しい出来事を見ると心が痛みます。そんな人が1人でも減ったらいいなと思っています」。ひとつひとつの発言に、りのさんの芯の強さと、深い心の優しさが滲み出ていました。

優しく、そして力強いりのさんの奏でる音楽は、これからも多くの人の心に温かい光を届けてくれることでしょう。また素敵な演奏を聴かせてくれることを楽しみにしています。

全国大会での植田りのさんの演奏はこちら