全日本弦楽コンクール

小学生高学年部門:白方創さん

小学生高学年部門の最優秀賞金賞はヴァイオリンの白方創(そう)さん。幼児部門最優秀賞の啓さんとはご兄弟です。宝仙学園小学校5年生の創さんは、ヴァイオリンを構えれば卓越した技術と豊かな感性で聴衆を魅了する一方で、学校では勉強にスポーツに全力投球。そしてデザインもお好きとのこと。その多才ぶりとユニークな感性の源流は、一体どこにあるのでしょうか。ご自宅から、お母さま、弟の啓さんと3人でインタビューに応じてくれました。

白方 創さん

創さんがヴァイオリンと出会ったのは、3歳半の時こと。当時はご家族の都合でシンガポールに住んでいたそうです。「お母さんがヴァイオリンを弾いていて、かっこいいなと思って」。その純粋な憧れが、すべての始まりでした。日本に帰国してから本格的にレッスンを始めることになりました。ちなみに、弟の啓さんも創さんのヴァイオリン姿に触発されて、後にご自身も楽器を始められたとか。音楽がごく自然に生活の中に溶け込んでいる、そんな素敵なご家庭の様子が目に浮かびます。

小さい頃の創さん。シンガポールで生まれて3歳まで暮らしていました

日本に帰国後、最初は幼稚園の近くやご自宅の近所で先生を探されたそうですが、お母さまのご友人のご紹介で、現在の師である岩崎裕子先生と出会いました。3年生からは元NHK交響楽団のコンサートマスターである篠崎史紀先生(通称・マロ先生)にもみていただいていており、毎回のレッスンをとても楽しみにしているそうです。

そんな創さんも、普段の練習では悩みを抱えていると言います。「普段のレッスンでは、僕すごく音程が外れちゃうので、音階をしっかりやりなさいって言われています。それでもやっぱり音程が外れちゃうんですけど」と、音程の不安定さが目下の課題として語ってくれました。

加えて、本番になるとどうしてもテンポが速くなってしまう癖も。その対策として最近導入したのが、腕時計のように身につける体感メトロノームだそう。現代的なデバイスも駆使して、自らの課題と向き合っています。

初めてのデュオ。憧れの大先輩・中谷哲太朗さんとドッペルを演奏した思い出の写真

現在、小学5年生。中学受験を控え、勉強との両立は想像以上に大変です。「勉強の量もすごくて、練習時間が少なくなっちゃったんですけど、やりくりして。自分で言うのもあれだけど、頑張ってます」。

練習時間は、普段は1時間半、少し頑張れる時で2時間半ほど。音階練習など基礎的な練習が中心になりますが、そればかりではやはり煮詰まってしまうこともあるようです。

そんな時の創さんのストレス発散法が、また実に創さんらしい。「たまになんか、ストレス発散で、ロック弾いたり。自分で作曲したというか、適当にわーっと弾いたりしてます」。クラシックの厳格さから一時的に離れ、衝動のままに音を紡ぐ。その原動力となったのが、石田組で知られるヴァイオリニスト石田泰尚さんの存在だと言います。「石田泰尚さんのコンサートに一度出演させてもらったことがあって、それから石田組の演奏をいろいろ聴いてたら次第にロックが好きになって。ロックをヴァイオリンでも弾けることを知って、すごい弾いてます」。とはいえ「人前ではとても聴かせられない」と創さんもお母さまも笑っていましたが、「弾いてて気持ちいいんですよ」と、音楽を心から愛する気持ちが伝わってきます。

仲良しの菊池結大くんとスターウォーズの仮装をして演奏。アンサンブルの楽しさを知りました

本番の舞台裏についても、実に興味深い話を聞かせてくれました。舞台で弾く前の緊張をほぐすために創さんが思い浮かべるのは、なんと茹でたてのうどんだそう。その画像が浮かぶと、不思議と緊張が和らいでいくのだとか。「音程外すときは、たまにそれが原因になるけど」とユーモラスな創さんです。

そして、演奏中はひたすら集中します。どのように音楽を表現しているのか聞いてみると、「本番では顔も使って表現しています」とのこと。ゆったりした箇所では眉をひそめるように憂いを帯びた表情を、元気の良いところではニコニコと楽しげな表情を。音楽と一体となり、全身全霊でその世界を表現しようと試みます。

同時に、苦手な音程にも注意を払いながら演奏しますが、例え失敗してもすぐに気持ちを切り替えて演奏を続けることも創さんの強みのひとつです。

最優秀賞金賞という結果に繋がった本大会での演奏の手応えは、どうだったのでしょうか。「重音だらけの曲だったけど、いつもより音程が合ってました。笑顔を作って弾いているうちにどんどん楽しくなってきてノリノリで弾いていたら(制限時間を伝えるための)ベルが鳴ったのに気づかなくて。そのまま弾き続けてたら、後ろから伴奏を弾いていた先生に終わりだよって言われて、それくらい集中してました」。音程も比較的安定し、自分の中では「わりとうまくいったかな」という感覚があったそうです。

それでも、受賞を知った瞬間は、信じられなかったと言います。「ほかの方々が上手すぎて、まさか自分が最優秀賞をいただけるなんて思っていませんでした。もちろんコンクールに出る時は金賞を目指してたけど、とても驚いて、でもすごくうれしかったです」と、受賞の喜びと驚きを語ってくれました。

大好きな岩崎先生と。先生のおかげで楽しんで演奏することの大切さを学びました

本大会以外にも数々のコンクールで受賞歴を持つ創さんですが、自己評価を尋ねてみると「自分でも分かるくらい、音がきれいというか…。特に長くて高い音は、親とか、おばあちゃんとか、先生とかにもよく言われて。そうかなぁって思うんですけど、音色がいいんじゃないかなと自負しております」と率直に語ってくれました。創さんの奏でる一音一音には、聴く者の心を掴む特別な響きが宿っているのでしょう。

さて、冒頭でも触れた通り、創さんはヴァイオリン一筋というわけではありません。毎週のヴァイオリンのレッスンのほかに、受験勉強のために塾に週3回通いながら、なんとサッカーも続けており、さらに学校ではソフトボール部や応援団にも所属し、リレーの選手にも選ばれているというから驚きです。「結構大変だけど、ヴァイオリンは頑張ってます。息抜きというか、その日の楽しみというか」。音楽も、勉強も、スポーツも。創さんの原動力は、底知れない好奇心のようです。「僕、興味が多すぎて。なんか、目の前にあるエサにすぐ食いついちゃうところもあるけど、でも実際食いつくとすごいおいしいんで」と多忙な日々も楽しむ様子が伝わってきます。

そんな創さんに、将来の夢を尋ねました。返ってきた答えは、「ものすごい高度なヴァイオリンが弾ける、デザイナー」という実に創さんらしいユニークなもの。それは、学校のデザインコンテストで最優秀賞になった経験から芽生えたものだそう。そう言って見せてくれたポスターのデザインは、大人の目から見ても洗練されており、その非凡なセンスを感じさせます。

「『デザイナーの仕事は将来、AIに取られるんじゃないか』ってお父さんに言われたことがあって。でも、逆にAIを活用したデザイナーになったらいいんじゃないかって考えてます。あと音楽についても、演奏できるロボットはあるけど、感性は人間にしかないから。そういう人間にしかない感性を活かして、いろいろとやっていきたいなって思っています」。小学5年生にして、AI時代を見据えた明確なビジョンを持っていることに、改めて舌を巻きました。

もちろん、まずは目先の目標である中学受験が待っていますが、今後はソロだけでなくオーケストラやアンサンブルに挑戦したいと考えています。まずは、ヴィヴァルディの『四季』やベートーヴェンの『運命』などを弾いてみたい、と今から胸を膨らませているようです。

インタビューの最後に、創さんはこれまでの道のりを支えてくれた人々への感謝を口にしました。「僕はヴァイオリンがすごい好きなので。ここまでこれたのは、やっぱり今まで教えてくれて、僕をここまで成長させてくれた岩崎先生とマロ先生のおかげです。そのもらった力をこれからもっと活かして、受験が終わったらもっとすごい頑張って、将来すごいうまいヴァイオリニスト兼デザイナーとして頑張っていきたいと思います」と、最後までユニークな創さんなのでした。

あまりにも多彩で、あまりにも魅力的なこの若き才能が、これからどんな物語を奏で、どんな未来をデザインしていくのか。そのキャンバスに描かれる鮮やかな色彩を、これからも楽しみに見守りたいと思います。

 

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