全日本弦楽コンクール

高校生部門
岡田知子さん

今回の本選の会場となった杉並公会堂は、音響に定評のあるホールです。ここで演奏することができる点が、出場への決め手のひとつとなった人も少なくありませんでした。高校生部門で1位に輝いた岡田知子さんもその一人。東京都立総合芸術高等学校の2年生です。

岡田知子さん

「すてきな舞台で弾かせてもらえて、うまく弾けたというより楽しかった」と知子さん。演奏したのは、知子さんの大好きな曲「ヴァイオリン協奏曲ニ短調第1楽章」。すてきなメロディはもちろん、作曲したシベリウスが「極寒の澄みきった北の空を、悠然と滑空する鷲のように」と言ったとおり、凍てつく寒さと緊張感のなか、鷲が海上をはばたいたり、太陽がのぼってくるのが見えたり、光景が手にとるようにわかって、表現を楽しむことができる一曲です。
表現することが好きですが、いつも気にかけているのは「音色」です。表現が行きすぎると、音色がきたなくなってしまう。ホールの中で音がどんなふうに響くのか、それを見極めていくことが、いまの課題のひとつだと言います。

知子さんが小さなころは、家の中でよくモーツァルトのCDが流れていました。もともとは兄が習っていたピアノに憧れがありましたが、ファミリーコンサートに連れて行ってもらい初めて聴いたオーケストラの演奏に感動。中でも主旋律を奏でるヴァイオリンの華やかな音色が強く印象に残り、本格的に習うことになりました。4歳のときです。

ヴァイオリンをはじめたころ

小学生高学年になると、コンクールに挑戦しはじめました。そんなある日、新聞に東京交響楽団の子供奏者募集の記事を見つけ、オーディションを受けることに。晴れて合格し、憧れのオーケストラに参加することになりました。

ヴァイオリンを始めたきっかけから一貫して、オーケストラへの憧れを抱き続けていますが、中学生になると、いわゆる音楽高校に進学するか普通校に進学するかで、悩んだと言います。「舞台で本番の演奏をするのは好きだけど、練習自体はそんなに好きじゃない(笑)」と知子さん。試しに、ヴァイオリンを控えてみることにしました。少し距離を置くことで、練習からも解放されていいかなと思っていましたが、実際は「ないとさみしくて。やっぱりヴァイオリンが好きなんだと気づきました」。

兄と一緒に発表会で演奏

音楽を専門的に学べる高校に進学しましたが、ちょうどコロナ禍で、この2年間は思い描いていた高校生活とは違う部分もありました。本来であれば、カリキュラムにオーケストラの授業が組み込まれていますが、感染防止対策の一環として、大人数での演奏機会がもてなくなってしまいました。担任の先生が工夫を凝らして、アンサンブルなど少人数編成での演奏機会を作ってくれましたが、それも自治体の方針に照らし合わせて、休止せざるをえない状況が続いています。

とはいえやはり音高に進学したことは、知子さんにとってプラスになっています。同じ志の人がまわりにいることは、「ドラマや漫画のように、ライバル視してバチバチするようなことはなくて(笑)、お互いにいいところを褒めて、高めあえる仲間」だと話します。

知子さんは、学校では選抜メンバーにも選ばれており、演奏機会が多くあります。そのほかコンサートやコンクール、試演会なども含めて最低でも月に一回、夏休みや冬休みなどの長期休暇や年度末など、時期によっては週に一回程度、本番の舞台を踏んでいますが、過去には緊張して練習の成果を出しきれなかったこともありました。本番の舞台で突然、左手の指が痙攣して弦をおさえられなくなってしまったのです。いつもできたことができないことの悔しさを、初めて体験しました。そのすぐあとにも本番を控えていたため、原因を考えて練習を重ねました。

しっかり練習すれば、本番で120%の力が出せることもある。そして、そんな舞台は楽しいということも知っています。「いくら回数を重ねても緊張はするけれど、少しずついい方向に持っていけるようになったと思います」。

子どものころにヴァイオリンと一緒に習いはじめたピアノは、いまも趣味として続けています。音楽が大好きだからこそ、数ある楽器の中でも、「ヴァイオリンは、ビブラートをかけることもできるし、和音も出せる。思いを表現するのに長けている楽器」だと感じています。音色の変化や弓の使い方でさまざまな気持ちを伝えることができる、それがヴァイオリンの一番の魅力です。
そしてより表現を豊かにするために、作者がその曲に対してどんな思いを寄せたのか、作品の背景を調べて、どんな場面で作られた曲なのかを知った上で、自分はそこにどんな思いを乗せるのかを考えます。まだできていないことも多いですが、年齢とレッスンを重ねて、成長を実感することもあります。

現在、高校2年生。行きたい大学も決まっていて、卒業後の進路もしっかりと見据えている知子さん。オーケストラへの憧れは変わらず、むしろより一層強くなっていると言います。「まずは大学に入ってオーケストラに所属してから、その後はプロのオーケストラに入団して、日本各地で演奏したいです」。目標が明確だからこそ、道筋は立っています。あとは、進むだけです。

 

「音楽に関わる」といっても、その関わり方はさまざまです。自分はどうありたいか、自分に合っているのはどんなスタイルか、それがわかっていればより具体的に計画を立てることができるわけですが、そのためには自分を知ることが大事です。知子さんはしっかり、自分自身と向き合っているのですね。迷わず前に進もうとする姿は、とてもまぶしかったです。

※文中の学年・年齢は、エントリー時のものです。
※インタビューは3月上旬に行いました。

本選での岡田知子さんの演奏はこちら